ARCHITECT JAPAN 2009─ARCHITECT2.0 WEB世代の建築進化論

「ARCHITECT JAPAN 2009─ARCHITECT2.0 WEB世代の建築進化論」展@GYRE。オープニングの日にちらと行ったのだけど、ようやくじっくり観ることができた。近年まれに見る、「構造」と「批評」のある展覧会。裏を返せば本展キュレーターである藤村龍至さんが現代の建築界に投げかける批判的メッセージとしても読める。


はじめに目を奪われるのはmashcomixによるタペストリー状に吊るされたマンガ作品。1945-1970-1995年を戦後の切断点ととらえる日本の批評界の議論(主に大澤真幸東浩紀)を受けて、戦後建築の展開をこの三つのフェイズに分けて、それぞれマンガ化。面白いのは、よくあるようにマンガをストーリーの解説として用いているのではなく、表現形式(スタイル、コマ割り..)そのものが、ある時代の建築の状況を映し出すように作られていること。たとえば第3フェイズ(1995以降)では、組織力を生かし効率的に大規模事業を進めるゼネコンと表層的なサーフェイスデザイナーとしての建築家との乖離的な併存が問題とされる。そしてマンガとしては、教室が並んだような単調なコマ割り(ゼネコン的効率重視設計)の上に学園ものの萌えキャラが描かれ、コマ割りの表層を彩る(アトリエ系建築家)、という具合。ここにはさらに複雑な構造が織り込まれてますが、ぜひ会場にて。


こういった、戦後建築史を3フェイズに分けた歴史的なパースペクティヴをマンガで示した上で、現代の建築における問題(大型化、郊外化、情報環境など)を踏まえた視点から、その他の展示物が構成されている。例えば古谷誠章せんだいメディアテーク案では、利用者が情報端末を用いてランダムに置かれた本にピンポイントでアクセスしていく様が示される(Amazonのリアル空間Ver.のよう)。先にあげた建築家とゼネコンとの乖離的な状況への対応例としてMVRDV+竹中工務店隈研吾NTTファシリティーズによる取り組み。何より面白いと思ったのは、展示の最後で徳山知永によるCADの図面がフィーチャーされていること。石上純也のような建築家による「アーティスティック」な表現を可能にする、もうひとりのアーキテクトの姿が描き出されている。


門外漢の僕にも、建築が抱える問題の一断面を明快に伝えてくれる興味深い展示でした。ひとつだけ、まだクリアにしきれていない、あるいはあえて回避したのかな、と思えるのは展示タイトルARCHITECT JAPAN 2009の「JAPAN」の部分でしょうか。例えば近いところで言っても2000年あたりのスーパーフラットというコンセプトに対応する動きとして、建築でも様々な動きがあったと思うけど、このあたりはスルーされている(実はこの点は藤村龍至+TEAM ROUNDABOUTによるインタヴュー集『1995年以後』にも感じていたのでした)。


というのも、この1945-1970-1995年という枠組みで美術の側から考えるなら、どうしても「日本」というのが大きな問題になってしまうだろうから。第1フェイズ(1945-1970)に針生一郎を、第2フェイズ(1970-1995)に椹木野衣を当てはめれば話は明快。針生氏であれば政治の問題、ひいては日本をどのように背負うのかという「理想の時代」の主題だし、椹木氏であれば、いわばシミュレーションとしての日本、「虚構の時代」の日本をどのように引き受けるかというのが問題になる。むしろその後、「シミュレーションとしての日本」すら機能しなくなる1995年以降の議論をどのように展開できるのかは、これからの美術における課題です。


一方、建築が抱える「郊外化」とか「ゼネコンとアトリエの乖離」みたいな問題設定が美術において直接アプライできるかといえば、なかなか難しいのだけれど、たとえば国際展型(ヨーロッパ-マルチカルチュラリズム)とアートフェア型(アメリカ-コマーシャリズム)の対立のようなグローバリゼーション以降の美術の状況と重なる部分もかなりあるわけで、先日のSpiralでのシンポジウムの際にも言及しましたが、今後、建築やwebの議論も含めて考えていく必要を感じています。こういう歴史的、構造的な問題を抜きにしてアートと建築が近づきました、なんていうのは無意味でしょう。


とにかく「展覧会」というものが持つ問題提起的な力を再確認させられました。それが建築の展示だったというのは気持ち的には複雑ですが。そういや僕もついこないだまで「批評としての展示をしたい」とかギャラリストの前で熱く語ってました、最近すっかり忘れていたのですが(笑)。表参道GYREにて8/30まで。時間をかけると様々なものが見えてきます。これ、良い展示の条件。

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8月にスパイラルで行ったシンポジウムと同じメンバーを中心に、9/5(土)トーキョーワンダーサイト本郷にてシンポジウムの予定。内容は直前でないと決まらないけど建築の話題も投入するかもしれません。別の日のシンポジウムには浅田彰さんに名和晃平さんも登場、キュレーターは後藤繁雄さんに木幡和枝さん。ひたすら豪華なメンツです。


北千住のスタジオ/オープンスペースcon tempoにて大山エンリコイサムさんの展示『FFIGURATI』が始まります。今週土曜日から。con tempoの最新情報はこちら

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(追記)
上の展覧会をキュレーションされた藤村龍至さんに本エントリをご紹介頂いています。感謝です。