aiko「気付かれないように」、再び

ニューアルバム『彼女』に収録されている「気付かれないように」に関してhttp://d.hatena.ne.jp/kosuke_ikeda/20060904で一度分析したのだが、この曲はaikoの中でもおそらく一二を争う名曲だと思う。上ではその決定不可能性について考えた訳だけど、改めて聞いてみると、こんなに短い歌詞の中から、未だ意味の確定し得ない箇所が見つかる。


「きっと知らない事ばかりだとあなたの指輪に戸惑った
『このままだって充分じゃない』 言い聞かせる手に爪の跡」(二重括弧は引用者による)


この『このままだって充分じゃない』というのは、「このままだって充分でしょ(だから聞かなくて良いじゃない)」と自らに「言い聞かせ」ているのか、あるいは「このままでは充分ではないのよ(だから聞き出さなきゃ)」ということなのだろうか。その前の「きっと知らない事ばかりだ」ということから考えれば後者の意味が強くなるが、その後の「手に爪の跡」を「このままで充分でしょ」といった諦めにも似た気持ちへの抵抗として捉えるのであれば、前者の意味が強まってくるように思われる。何でこんなに微妙な、より正確に言えば、二つの相反する意味を同時に捉えてしまうような「完全に不完全な」言葉を選んでしまえるのだろうか。単に天才としか言いようがない。


前にも書いたけど「気付かないように 気付かれないように」というフレーズも、このような不確定な場所、完全に不完全な地点を見事に指し示す。「気付かれないように」という言葉においてはどこか意識的な、相手が何かに気付かないよう用心深く振る舞う、というニュアンスが示されるのだけれど、にもかかわらず、それが「気付かないように」つまり無意識的な状態である事への願望と共に示される。いや、「気付かないように」することととは、無意識的である事ではなく、むしろ明確に意識化された二つの意味の狭間で、決定的に決定不能な地点を選びとる態度にこそ見いだせる。何かに意味を与えることが「気付く」事だとすれば、歌詞の中では「泣きそうになる」事の意味が「出逢えた喜び」と「戻れない悲しみ」との間で決定不能なまま宙づりにされ、同様に「照れ隠しに髪を触った」主体も、「このままだって充分じゃない」という声明も、「昔のあなたを見た」時の感情も、すべてが決定的に決定不能な、完全に不完全な場所にある事が分かる。


あーライブで聞きたいなあ。
こういうライブレポートが気になるのだった。
http://bluenote.seesaa.net/article/27489793.html
http://bluenote.seesaa.net/article/27499521.html
http://bluenote.seesaa.net/article/27711894.html