中村大三郎「読書」(1936)

kosuke_ikeda2006-09-15

カタログをぱらぱらと見てたら、中村大三郎の「読書」(1936)が目に留まる。
構図は非常に平明。画面右上から左下にかけての対角線上に頭部、手元、膝が配され、それらの要素をモデルの視線が左下方向へと貫く。この視線に導かれて画面左下へと進んだ視線は、もう一度同じ道筋を辿って、女の頭部へと戻ることとなる、そこにある、頭髪への不毛なまでのディテール。後頭部の頂点あたりで微妙にほつれた髪、耳にほぐれかかる二筋の髪、その側のうなじへと至る、超絶的な書き込みが観者の視線をここで、固定する。


安定的な構図の中に再び視線を留めた観者、その平穏な視野の中に突如、侵入してくるかのように、画面右下から何やら見慣れない形態をもった物体が現れ出てくる(ホルバイン『大使たち』における歪んだ骸骨のよう)。画中のモデルは読書に没入しており、その形態の侵犯に、一向に気付く様子もない。背景と全く同色の背もたれは、画中の空間から完全に切り離された異空間のようにも見える、そういえばこの椅子には足が描かれておらず、何処に位置しているのかも定かではない。「読む」ことの出来ない、象徴化できない不気味なものは、いつも遅れて、そして、斜めから、忍び込んでくる。