how to sing

aikoの『彼女』を聞いていてあらためて思うのは、この人は歌うスタイルに、ほとんど特徴らしい特徴がないということ。たいていのポップスターは自分で曲なんて書いていない訳で、与えられた曲をそのまま歌う事になる、ということは歌うスタイルで私なるものを構成せざるを得ない。こういうシンガーの場合、歌うという事はいわば塗り絵みたいなもので、すでに与えられた枠組みの中でどのように色を付けるか、という事になるし、その自らに対する制約を忘却すべく、独自の塗り方＝歌い方に関心を注ぐよりほかない。とはいえ、いわゆるシンガーソングライターと呼ばれている人、たとえば中島みゆきだとか松任谷由実だとかにもかなり特徴的な声と歌うスタイルがある、少なくともこの人たちに比べれば、aikoのそれは「ミジンコ並みに普通」だと思う。あえてその特徴を取り出すとすれば、長い息を吐いたあとのブレスの入れ方、とかだろうか。

これはシンガーとしてのaikoに何か問題があるというのでは全くなく、むしろaikoとしては楽曲に対する圧倒的な自信があるからこそ、あからさまな形で歌い方に特徴をつけたり、変な声をだしたりする必要性を感じないのではないか。よくいわれるように、まず特徴的なのは、何がどう展開してゆくか予測のつかないメロディーラインで、その次にあまり言われない事だけど、謎の多い歌詞によって躓きの石がそこら中に散りばめられる。この二つの要素が相互作用を為し、抵抗面の多い複雑な楽曲が出来上がっている。