鑑賞者、理想としての

ワシントンDCから美術史研究者の加治屋健司さんと高松麻里さんがNYに来ていて、一緒に僕の展示とSOHO界隈を見て回る。この2人は美術史のアカデミックな研究を続けていると同時に、現代美術やその他のジャンルの表現も見ているという、非常に奇特かつ恐ろしい存在なのだ。僕の展示では、何となく僕が考えていた「イメージ」の問題や、それと物体性との関係など、僕が長い時間かけて制作しながら考えていた点が次々に指摘されて、ああ、僕のやっていた事は案外、(理論的な水準においても)そんなに的外れではないのだなあ、と嬉しく思う。特にそういう類いの先鋭的な問題を美術関係者と話せる機会はごく稀なので、その意味でも興奮する。興奮ついでに、僕が今後二、三年かけて取り組むつもりでいる日本近代絵画をめぐるプロジェクトの構想なんかもついこぼしてしまった。こういう厳しい目をもった人たちがいる、それは実際に知っている人でなくても、見に来てくれる人でなくてもいいのだけれど、そういう存在を意識するという事が、僕の制作において緊張感を持続させるのだなあ、と思う。