■NYのノイエギャラリーにて「クレーとアメリカ」展。良い作品が沢山あったのに、ホームページで見られないのは残念。


絵画のフォーマルな問題設定として線と色の対立がある。で、これはフォーム(形質)とマター(素材)という対立に置き換えられる事になっていて、さらにパラフレーズすると彫塑的と絵画的というヴェルフリン流の様式展開ともつながる。では、クレーという画家はどうなのか。線の作家とも言われる気がするし、色をその特徴として語られる事もある気がする。線がその魅力を基礎づけている作品もあれば、色面の構成で魅せてるものもある、というのが実際の所だろう。あるいは小さな斑点状のタッチ、これらは凝集して色面を構成する事もあれば、そのまま何かの表象の一部になる事もあり、さらにそれよりも小さなドットを繋げて点線のようにすることも。


こうして考えてみれば色面ー斑点ー色点ー点線ー線という系の中で、微妙にレヴェルを使い分けながら、絵画を構成している事が分かる。特に良いと思われる作品の中には、このなかのいくつかの要素が重層的に用いられていて、観る立ち位置や焦点のあわせ方によって、作品がその様相を変えてゆく、つまり線的にも色彩的にも見えるような、そういう地点を捉えている。今回、特に気になったのは斑点の凝集。これは平筆で丁寧にぺたりぺたりと一定の空間をあけながら、ほぼ均一の斑点を支持体においていく技法。つまり全てを平板に塗り付けてしまうわけではないので、その後ろ側の空間との関係を形成しつつ、しかし重ね合わせる事なく広げてゆく事で平面性をも持つ,というような二面性を持つ要素だ。あるいは浅い平面性とかいうアレとも重ねられるかもしれない。


いずれにせよ、先にあげたような系を成す要素が、キチンと整理された形で現れていて、何か一つの要素が一つの作品を押し切ってしまうという事がなくて、そういう感じは、白い台紙の上に描いた支持体を貼付けるというような物体的二重化の感覚とも繋がるものだと思う(これはダミッシュのクレー論でも取り上げられていた)。